21世紀がデジタル知識基盤社会の時代であることは、誰もが知っています。すでに新しい技術やシステム、商用ネットワークが数多く生み出され、その中の一部は成功して莫大な収益を得てきました。人々の日常でも、新聞、雑誌、紙の本や放送から電子媒体への移行が急速に進み、出版社や新聞社、放送局はこの地殻変動への対応を迫られています。さらに学問的にも、社会情報学、人文情報学、コンピュータサイエンス、アーカイブス学などそれぞれの分野で学術的テーマへの取り組みがなされてきました。多方面で日進月歩の変化のなかで、なぜ今、さらにもう一つの学会を創設する必要があるのでしょうか。
理由は明白です。一見順調に見えるデジタル知識基盤社会への移行ですが、ただ一点、決定的な欠落があり、それを放置しておくとこれまでの多くの学術や産業、技術開発の努力が水泡に帰すのです。それは、幅広い草の根的な活動と結びついた仕方での政策形成です。たしかに今日、技術は進み、ビジネスも叢生し、新しい需要も喚起され、個別の研究も進んでいます。ところがこれらを政策的な観点から結びつけ、政府、自治体、関連諸機関、教育現場、企業活動を方向づけていくプラットフォームが存在しないのです。
かつて日本では、この種の政策立案は通産省なり文部省なりのエリート官僚の役割と考えられていました。その後は無数のシンクタンクがそうした役割を代替してきました。しかし21世紀のデジタル知識基盤社会は、このような体制では決して成功しません。中央省庁から民間企業、地域の草の根の活動までが、高い次元で車座的に話し合い、共に考え、共に新しい政策を形成していくことが、とりわけこのデジタルアーカイブの分野には不可欠なのです。本学会は、まさにこのような豊かなデジタル知識基盤社会構築のための草の根から政府までを縦横につなぐ政策形成プラットフォームとして設立されます。
したがって本学会が目指すのは、デジタルアーカイブに関する個別的研究にとどまりません。21世紀日本のデジタル知識基盤構築で、国と自治体、市民、企業はいかなる連携体制を組んでいけるのか。オープンサイエンスの基盤となる公共的デジタルアーカイブの構築をどう促進するか。デジタルアーカイブ人材の育成とキャリアパス構築、技術的標準化を促進する諸方策とは何か。地域のデジタルアーカイブ構築を支援する体制をどう整えるか。さらに、これらの諸方策の根幹をなすデジタル知識基盤社会の法制度はいかにあるべきか。デジタルアーカイブに取り組む諸関連学会、研究者を繋ぎ、共通の認識基盤を形成しながらこうした具体的政策課題に取り組むことが、本学会の目指すところです。
この目標を実現するためには、本学会自体が、産官学民を横断し、理論と実践をつなぐ存在とならねばなりません。国会や中央省庁、自治体からも、民間企業からも、市民的な活動団体からも参加を歓迎します。つまり本学会は、大学の専門研究者に閉じた団体であってはなりません。専門研究者ももちろん加わるのですが、学者と行政、企業、市民、実務家が具体的な政策について真剣に話し合う場を形成すべきだと考えています。