AI時代におけるデジタルアーカイブの使命
デジタルアーカイブ学会会長 黒橋禎夫
(国立情報学研究所 所長 / 京都大学 特定教授)
2025年6月の総会の議決を経てデジタルアーカイブ学会の会長を拝命しました。学会員の皆様とともに、次の時代にふさわしいデジタルアーカイブ学会を築いていきたいと考えています。
今日の時代を最も特徴づけるものは、AIの急速な進展でしょう。2022年11月に公開されたChatGPTは、人間以外で初めて人間並みに言葉を操る人工物として大きな衝撃を与えました。日本でも2023年以降、生成AIに関する話題が日常的に取り上げられるようになり、その後も進化は続いています。今やAIは、自然画像や文書画像を理解し、自ら判断してプログラミングや情報検索を行い、数分間で情報収集と推論を経てレポートをまとめる「Deep Research」という機能まで備えるに至りました。こうした技術の進歩が社会全体を変革していくことは疑いありません。研究、教育、産業、日常生活、そして本学会が目指してきた「デジタル知識基盤の構築」も、その影響を避けることはできません。
複雑化する社会課題に立ち向かうには、学術と産業・社会をつなぐ分野横断的な活動が不可欠であり、それを推進する上で避けて通れない存在がAIです。しかし、AIは社会を良くする可能性を秘める一方で、混乱をもたらす危うさもあり、今まさにその分岐点にあります。文理融合の場としてのデジタルアーカイブ学会、そしてAIの根幹を支える「データの真正性と利活用」に真正面から取り組んできた学会の役割は、かつてなく大きいと確信しています。
これからの学会は、AIと人類の共存を可能にする社会デザインに貢献し、未来に向けた知の基盤を築く挑戦を続けていきます。皆様とともに、この新たな使命を果たしてまいります。
(2025年7月4日)