• 実践賞
    • 本間淳(フェリックス・スタイル)
      本間氏はデジタルアーカイブの利活用に資するフリーソフトウェアの開発に長年携わってきた。中でもIIIF分野でのソフトウェア開発への貢献は顕著である。IIIF画像を対象に深層学習で変体仮名を認識するWeb APIや、IIIF対応ビューワ選択を補助するブラウザ拡張機能Open in IIIF Viewerを開発、さらにIIIF対応ビューワとして国際的に利用されるIIIF Curation Viewerや、動画アノテーションビューワの開発などでも中心的に活躍した。
      ソフトウェア開発とユーザエクスペリエンスデザインをいずれも高いレベルで実現した点は、今後のデジタルアーカイブ構築の模範となるものであり、その貢献を高く評価し、実践賞を授与する。
    • 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館
      早稲田大学坪内博士記念演劇博物館(エンパク)は、従来から演劇に関する各種資料を幅広く蓄積し、それらをデータベースとして公開してきた。またコロナ禍によって、演劇文化が危機に瀕した状況において、緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)の一環として、現代演劇・舞踊・伝統芸能の三分野にわたる舞台公演映像の情報検索特設サイトであるJapan Digital Theatre Archives (JDTA)を開設した。
      日本における演劇デジタルアーカイブのハブ形成に向けた一連の活動を高く評価し、実践賞を授与する。
    • 岡山県立図書館
      岡山県立図書館は、2018年7月に岡山県倉敷市真備を中心に大きな被害が出た水害に関し、岡山県危機管理課とともに「平成30年7月豪雨災害デジタルアーカイブ」を2021年4月に公開した。長年にわたって運営してきた「デジタル岡山大百科」の存在を前提に、地方自治体のデジタルアーカイブにおいて図書館が主要な役割を担って組織連携を進め、被災状況のみならずボランティア活動や復興状況も含めた地域の被災状況を幅広くデジタルアーカイブに記録している点は、阪神淡路大震災や東日本大震災の教訓を踏まえた災害デジタルアーカイブのひとつのモデルを示していると評価できる。
      「デジタル岡山大百科」などのサービスと同様、この豪雨災害デジタルアーカイブについても持続的な運営を継続することへの期待も込めて、実践賞を授与する。
    • 渡邉英徳(東京大学)・古橋大地(青山学院大学)など関係者一同
      2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻に関する衛星写真や3Dデータなどをタイムリーに利活用し、デジタルアースプラットフォームで状況を可視化していく手法は、OSINT(Open-source intelligence)を活用した新たなアーカイブ活動の展開と言える。また現地の人々に焦点を合わせ、現地への支援の手段を組み込んでいることも注目に値する。
      刻一刻と変化する状況に対応する、リアルタイムのデジタルアーカイブの新たな可能性を示す活動を高く評価し、実践賞を授与する。
    • 鹿野雄一(九州大学)
      鹿野氏による「3Dデジタル生物標本」は、生物標本に適したフォトグラメトリの手法である「バイオフォトグラメトリ」を開発し、水生生物を中心に、は虫類、両生類等の700種以上1400点の3Dモデルをオープンデータとして公開したものである。この成果は、標本の劣化や紛失への対応、標本へのアクセス性の向上、3Dモデルを用いた新たな利活用の展開などにつながることが期待できる。
      生物多様性分野におけるデジタルアーカイブの新たな可能性を開く活動に対し、実践賞を授与する。
  • 学術賞(研究論文)
    • 「不正義の景観」デジタルアーカイブにおける日系カナダ人家族の記憶.
      稲葉あや香.
      デジタルアーカイブ学会誌. 2022, 6(2), e11-e15.
      第二次世界大戦時の日系カナダ人財産没収を主題とする調査用データベース「不正義の景観(LoI)」を対象に、アーカイブが学術資料、集合的記憶、家族の記憶という3側面を持つことを踏まえつつ、利用者にとっては家族史の資料としても重要であることを指摘した。その上で、個別的な物語がより大きな集団の物語とも併存できることがデジタルアーカイブの可能性であるとした。
      社会史の観点からデジタルアーカイブの意義と可能性を深く考察した論文に対し、学術賞(研究論文)を授与する。
  • 学術賞(著書)
    • 人文学のためのテキストデータ構築入門?: TEIガイドラインに準拠した取り組みにむけて
      一般財団法人人文情報学研究所(監修), 石田友梨, 大向一輝, 小風綾乃, 永崎研宣, 宮川創, 渡邉要一郞(編)
      文学通信. 2022.
      本書は、テキストデータの蓄積・共有に重要な役割を担うTEI(Text Encoding Initiative)ガイドラインを中心として、豊富な実践例や利活用事例をソフトウェアの詳細にまで踏み込んで解説している。
      日本語テキストの利用環境が大きく変化しつつある現在、国際的な動向を踏まえつつ、人文学系デジタルアーカイブを構築するための時宜を得た著作であると評価し、学術賞(著書)を授与する。
    • 自然史・理工系研究データの活用(デジタルアーカイブ・ベーシックス3).
      井上透(監修), 中村覚(責任編集)
      勉誠出版. 2020.
      本書は、「デジタルアーカイブ・ベーシックス」シリーズの1冊として、自然史・理工系の研究データの活用状況を一望する構成となっている。まずオープンデータや国際的な動向を押さえ、その上で、天文学・魚類写真・生物多様性情報・環境学・南方熊楠・オーロラ・工学史料など、多様な分野での展開を紹介する。
      これらの分野について、基本情報と最新動向が同時に記述された学術的書籍はあまり類例がない。デジタルアーカイブに関する著作として新たな分野を開拓したことを評価し、学術賞(著作)を授与する。
    • メディアとアーカイブ? 地域でつくる・地域をつくる.
      松本恭幸(編)
      大月書店. 2022.
      本書は、持続可能な地域社会のデザインに向けて、コミュニティメディア・ローカルメディアの観点から先進事例をまとめたものである。地域情報サイトや地域の映像制作、コミュニティアーカイブ構築などを素材に、情報環境整備、情報発信と交流の場づくり、記録と記憶の継承などに言及している。
      デジタルアーカイブが社会に定着するには、地域コミュニティでの利活用が重要な課題であるが、その際に参考となる事例を多数掲載している点を評価し、学術賞(著作)を授与する。
  • 学術賞(基盤・システム)
    • 文化財総覧WebGIS.
      奈良文化財研究所企画調整部文化財情報研究室
      奈良文化財研究所は2021年7月に「文化財総覧WebGIS」を公開した。これは、全国の文化財に関するデータ 約61万件 に関するWebGISで、文化財の所在地や種別、時代等によって検索できる。また、従来から整備を続けていた「全国遺跡報告総覧」に掲載されている文化財報告書との連携も行われており、当該分野における基盤システムとして価値が高く、奈良文化財研究所が当該分野のナショナルセンターの役割を果たしていると言える。
      文化財情報の利活用に大きなインパクトをあたえるシステムとして近年の取組のなかで特段に優れていると評価し、学術賞(基盤・システム)を授与する。
    • NDL Ngram Viewer.
      国立国会図書館
      国立国会図書館は、提供するデジタル化資料247万点について、2021年度にOCRによるテキスト化を実施した。この成果物のテキストデータを活用した実験サービスとして、2022年5月、著作権保護期間の満了した図書資料28万点内に出現する語句の頻度情報を可視化する分析ツール「NDL Ngram Viewer」を公開した。英語圏等では長らく使われてきたNgram Viewerが、ついに日本語圏にも登場したことは、今後のデジタルアーカイブの研究・開発・利活用、それぞれに対して大きなインパクトがある。現在のところ実験サービスと位置づけられているものの、正規表現クエリでの検索が可能であるなど、工夫が凝らされている。
      デジタルアーカイブの可用性を大いに開く、特段に優れているサービスと評価し、学術賞(基盤・システム)を授与する。
    • IIIF Curation Platform.
      北本朝展(ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター)、本間淳(フェリックス・スタイル)、Tarek Saier (Karlsruhe Institute of Technology)
      ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センターが構築した「IIIF Curation Platform」は、IIIFを活用したデジタルアーカイブの包括的なキュレーションツールとして、すでに新たなデジタルアーカイブの構築にも利用され、デジタルアーカイブの魅力を発信している。拡張可能な設計や、オープンソースであることもあいまって、先進的なツールの一つとして国際的にも利用が広がりつつある。
      デジタルアーカイブの基盤・システムの代表例として特段に優れていると評価し、学術賞(基盤・システム)を授与する。
    • みを(miwo):AIくずし字認識アプリ.
      カラーヌワット・タリン(Google Research)、北本朝展(ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター)
      2021年8月に正式公開された「みを(miwo):AIくずし字認識アプリ」は、スマホカメラの撮影によりくずし字資料を高速に文字認識できる機能を実現したアプリである。AIの導入に必要となる複雑な設定作業なしに、誰でもどこでも簡単に使えるアプリとして提供したことにより、「デジタルアーカイブを日常にする」ための仕組みとして、大きな社会的インパクトを引き起こした。
      デジタルアーカイブ利活用の範とすべきアプリとして特段に優れていると評価し、学術賞(基盤・システム)を授与する。
    • 教科書LOD.
      江草由佳・高久雅生ほか教科書LODプロジェクト
      教科書LODプロジェクトは、初等・中等教育で使われている学習指導要領と教科書の出版情報、単元情報、編修趣意書情報などをLOD(Linked Open Data)として公開したものである。公開以来継続的にデータセットの追加などが行われており、現在、約8,000タイトルの教科書および関連情報を公開している。教育資源にLODを適用することで、学術インフラとしての利活用が可能になった。
      本プロジェクトは研究資源整備の好例と位置づけられるため、学術賞(基盤・システム)を授与する。