◆功労賞

アンドルー・ゴードン氏(ハーバード大学教授)

アンドルー・ゴ―ドン氏は日本近代史の研究で大きな成果をあげる一方、ハーバード大学エドウィン・O・ライシャワー日本研究所において、日本関係資料の収集を長年おこない、webアーカイブの実績も多い。特に2011年の東日本大震災の初期段階で「東日本大震災アーカイブ」(現「日本災害DIGITALアーカイブ」) をいち早く立ち上げ、日本国内では対応しきれない情報も含め、震災に関するネットの情報を広く収集して公開し、わが国の震災アーカイブに大きな影響を与えてきた。
その業績は極めて大きく、デジタルアーカイブ学会功労賞を授与するのにあまりあるものである。

◆実践賞

大網白里市教育委員会

「館を持たない自治体が提案する本格的デジタル博物館」として2018年にスタートした大網白里市デジタルミュージアムが全国でもまれな事例として注目される。デジタルならではの特長を活かして、町史の成果をはじめ、美術品や博物資料を広く公開している。コロナ禍においても、学校と連携して提供領域を拡大するなど地域アーカイブのモデル的存在と言える。
行政運営のデジタルアーカイブとして突出している上、教育や地域創生との連携も評価でき、将来のモデルになると考えられるため、実践賞を授与する。

沖縄アーカイブ研究所

自からのアイデンティティたる文化資源の発信のために、沖縄県内のデジタルアーカイブをまとめていく必要性から出発した取組みである。8ミリフィルム映像を収集してデジタル化と公開を行っていくなかで、沖縄の戦後史を市民の目線による撮影で再現するプロジェクトを展開している。映像を分析して時期や場所を特定するなど、新たな事実も浮かび上がらせている。地域アーカイブの観点から公開性を担保しつつ、放送局との連携で市民からのフィードバックをうける仕組みも確立している。
コミュニティでの回想法という言うべき意欲的な取り組みと積み上げであり、他地域での取組みに大きな参考になる点も含め、実践賞に値すると考える。

久米川正好氏(NPO法人 科学映像館を支える会)

久米川氏は2007年に「NPO法人 科学映像館を支える会」の設立以来、同会の理事長として、科学映画を中心とする記録映画を収集・デジタル化する「科学映像館」の運営をささえている。同サイトでは、現在、すでに1100本を超える戦後初期から高度成長期を中心とした貴重な記録映画を無料で公開している。これらの映像の評価は高く、報道機関や教育現場などでも広く活用されている。
この間、久米川氏は資金の調達、会の運営を中心となって、長年にわたり多大な貢献をされてきた。その業績を高く評価し、実践賞を授与する。

チーム カルチュラル・ジャパン

阿辺川武氏(国立情報学研究所)・石山星亜良氏・植田禎子氏・神崎正英氏(ゼノン・リミテッド・パートナーズ)・高野明彦氏(国立情報学研究所)・中村覚氏(東京大学) の6名からなる、「チーム カルチュラル・ジャパン」は、国内外の日本関係コンテンツを統合的に検索することを可能とした、画期的なシステムを開発し、2020年8月にカルチュラル・ジャパンとして公開した。
世界中の美術館、博物館、図書館などで公開されている日本文化に関連するコンテンツを集約して共通のフォーマットに変換し、利用しやすい形で提供することによって、電子的に利用可能なデジタル文化資源の幅を広げたことを高く評価し、実践賞を授与する。

東京大学学術資産アーカイブ化推進室

「東京大学総合図書館所蔵 亀井文庫 ピラネージ画像データベース(拡張版)」は、かつてCOEプロジェクト「象形文化の継承と創成に関する研究」により提供されていたデータベースを再構築し公開したものである。IIIFをはじめとする現代的な規格によりながらも、公開時に近いユーザ体験までも復活させている。研究プロジェクトから大学図書館へと主体を変えつつ、公開時の意義を調査して再現したことは、デジタルアーカイブの持続可能性を新たに提示したデジタルアーカイブレスキューの好例と評価できる。
同推進室は、この他にも非常に活発な活動を行っており、大学におけるデジタルアーカイブを牽引する存在となっている。そのため、ここに実践賞を授賞する。

中村覚氏(東京大学史料編纂所)

中村覚氏は、Linked Dataをはじめとする情報技術を用いたデジタルアーカイブの構築と活用に関する研究などを行っている。その一方、国際標準規格やそれに基づくツールの活用を早期から導入し、「平賀譲デジタルアーカイブ」「デジタル源氏物語」「カルチュラル・ジャパン」など、数々の模範的なデジタルアーカイブの構築運用において顕著な貢献があった。
氏の活動は、この間注目を集めている様々なデジタルアーカイブに深く関わるものであり、個人の活動として、デジタルアーカイブ学会の実践賞にふさわしく、ここに授与するものである。

◆学術賞(研究論文)

機械学習のための資料レイアウトデータセットの構築と公開.
青池亨, 木下貴文, 里見航, 川島隆徳.
じんもんこん2019論文集. 2019, 115-120.

本論考は大規模デジタルアーカイブを効率的に扱えるようにするための基礎を形成するための取り組みの一環である。国立国会図書館デジタルコレクション由来のNDL-DocLデータセット(資料画像レイアウトデータセット)を対象に、先行する他機関のデータセットとの相違点を確認しつつその特徴を述べ、あわせて構築過程における検討事項や開発したツールの紹介も行っている。データセットを公開して基盤形成に資した点にも注目し、学術賞(研究論文)を授与する。
また、論文自体の評価に加え、大学等ではない場で厳しい条件のなか、研究機能を維持・発揮している点も注目される。

ジャパンサーチを活用した小中高でのキュレーション授業デザイン : デジタルアーカイブの教育活用意義と可能性.
大井将生, 渡邉英徳.
デジタルアーカイブ学会誌. 2020, 4(4), 352-359.

ジャパンサーチの教育活用について実践をともなった検討を行うことを通じて、デジタルアーカイブの新たな利活用について論じたものである。対象者が自ら立てた問いに基づいて学びを展開することで、多面的・多角的な視座を育む学習デザインの一例を示している。
ジャパンサーチのみならずデジタルアーカイブ一般に適応できる教育活用の実例と課題を示したこと、さらにコロナ禍の今年度にこの研究が公表されたこともあわせ、高く評価し、学術賞(研究論文)を授与する。

◆学術賞(著書)

デジタル学術空間の作り方 仏教学から提起する次世代人文学のモデル
下田正弘・永﨑研宣編
文学通信. 2019-12.

本書は、仏教学におけるデジタルアーカイブの構築から利活用までの状況を長年のプロジェクトをもとにとりまとめたものである。中世くずし字写本のOCRや国際的なオンライン研究会における利用など、デジタルアーカイブの利活用を考える上で貴重な情報が含まれている。これらは、仏教学の知の体系化の伝統を現代的に受け継いだものとも言えよう。また、オープンアクセスでの公開を行う一方で、書籍としても刊行することで市場流通にも対応している。
これらをあわせ、学術賞(著書)を授与するにふさわしいと評価できる。

デジタルアーカイブの理論と政策.
柳与志夫著
勁草書房. 2020-01.

著者の長年にわたる検討をまとめたもの。デジタルアーカイブに関して、このような論文集が編まれること自体が評価できる。また、デジタルアーカイブの基本的機能や社会的意味に関して、共通認識を形成するために、デジタルアーカイブ構築・利用の改善のための基礎理論を提示し、政策の方向性について考察が行われている。慎重な書きぶりながら大きな問題提起があり、また、各段階に応じて検討された内容が通覧できることに意義がある。
その内容とともに、デジタルアーカイブの理論に関わる議論喚起の素材になることを期待して、学術賞(著書)を授与する。